踏みしめるとそれほど深くないのかすぐに地面と靴底がキスを交わした。
日曜日だからこそなのか、道端には子供がはしゃぎ回って白い粉を踏みつけている。
転ばなければいいのだが。そう思った矢先幾人かの子供のうち一人が派手に転んで白い海に顔からダイブした。周りの子も本人も一瞬キョトンとした後すぐに起き上がって、再び笑い声を響かせている。元気なものだ、子供とは。転んだ少年は自分の服についた粉が水になる前に叩き落とすと、後ろを振り返って私を目に留めた。私は視線を反らすとその場所から立ち去ろうとした、が。
その少年は周りの子に別れを告げるジェスチャーをした後あろうことか私の元へと駆けてきた。にっこにっこというような表現が似合うような表情で。
「ルーク、皆と遊んでいて良いんだよ」
「良いんです。さっきから遊んでましたから。先生について行くために待ってたんですよー」
ルークは私の左隣に立って並んで歩きはじめた。左は道路で車が通っていて危ない。意識的に私はルークの左に立ち位置を変えた。
大学まで車で行こうかとも思ったが、スリップして私の愛車が壊れるのは嫌なので仕方なく研究室まで歩かねばならない。この真冬真っ只中、車が使えないというのは非常に困る。雪は止んでいるものの、まだ早朝だ。気温が低いことに変わりは無い。吐く息の白さでそれは証明できる。鞄を持つ手がかじかんでいて痛い。手袋を買うべきだったかと後悔するがそんな暇さえないほど最近は忙しかったかと思い、白い溜め息を吐いた。
冬の外気に直接晒されている両の手が非常に冷たいのだとふと思って、息を吐きかけてみる。それほど温まりはしないようだ。
「先生、」
視線を右下に移すと、ルークがにこにこしながら手袋を外して手を差し伸べてくる。そういえば、子供は体温が高いと言うことを思い出してみた。一瞬だけ手を止めてから、ちょっと戸惑いつつルークの手を握った。
案の定、さっきまで手袋に包まれていたルークの手は温かかった。まるで火に当たっているときのように手に体温が戻るのを感じたが、この子の手が冷えるのは忍びなかった。けれど、手を解こうとしてもルークの手が離れてくれない。
「ルーク、もう」
君の手が冷えてしまう。
「いいから、もうちょっとだけ」
もうちょっとと言われて結局大学に着いてしまったのだが。そのころ私の右手はルークと同じ温度になっていた。
「先生の手、温かくなりましたね」
大学の門をくぐった瞬間、ルークはするりと手を解いてしまった。先生、早く。そう言って急かす。
苦笑しながら急かされるままに大学の校内をあるいて行く。
右手にだけ残ったぬくもりを見つめて、あの子の熱さに身体の奥からなんともいえない気持ちになった。おもわず叫んで、いや悲鳴をあげてしまいそうになって焦って口を押さえる。この、情欲にも似た疼きは何なのか、後にも先にも分かることはなく。結局、成長する彼を見守るしかなかったのだけれど。
最初レイルク最後ルクレイ。ダメですね、途中で書く手を止めちゃうと。なんだかよくわかんなくなった。
「ルークは私の左隣に~」ってところをちょっぴりナゾ風味に書いてみたのだけ覚えてる。
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