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死ネタ続き。土銀だけどあんまりそれっぽくないかも。
続きからどうぞ。

2/29 加筆


ピンポーン
家に響いたチャイムの音に、こたつに入っていた定春が顔を上げた。
「新聞の集金アルか?」
「うーんどうだろ。銀さんかな?」
裁縫をしていた手を止め、新八が立ち上がる。神楽はテレビを見つめたままだ。玄関へ向かう新八の後ろで、定春は切なそうにくぅん、と鳴いた。定春の様子に気づいた神楽はテレビから離れ、一緒にこたつに入る。
「どうしたネ定春。お腹でも減ったアルか?」
「くぅん」
違うとでも言いたそうな定春の様子に、神楽は首を傾げた。そこへバタバタと忙しない足音をたてて新八が戻ってくる。神楽は面倒臭そうに新八に顔を向けた。
「うるさいメガネ。何をそんなに慌ててるアルか。彼女か、彼女でも来たアルか」
「そんなんじゃないよ!神楽ちゃん、すぐ出かける仕度して!」
慌てた様子の新八は神楽にツッ込むことも無く慌ててテレビを消した。明らかにおかしい新八に、そのまま質問をぶつける。
「どうしたアルか?」
新八は「わかんないけど、急いで」としか答えてはくれなかった。


仕度を終えた2人と1匹が外へ出ると、1台のパトカーとそれによりかかる沖田がいた。嫌そうな顔をする神楽だったが、とりあえず手を出さないことにホッとした新八は沖田に話しかける。沖田も普段の毒舌ぶりは無く、喧嘩をふっかけるような発言は1つとして無かった。
「とりあえず車に乗ってくだせぇ。中で説明しまさァ」
助手席のドアを開けてさっさと沖田が乗り込んだので、神楽と新八も車に乗り込む。定春は入らないので後ろから走ってついてくることになった。山崎の運転でパトカーが動き出す。巨大な定春がミラーに写るのを確認してから、沖田は口を開いた。
「…ちっと困ったことになっちまったみたいでねィ」
「困ったこと、ですか?」
「俺たちにとってよりも、アンタらのほうが困るかもしれませんねィ」
自嘲気味な笑みはどこか苦しそうだった。心なしか全体的にしんみりした空気が車内に漂っている。らしくない空気に我に返った沖田はすみませんねィと微笑み、新八と神楽に現実を突きつけた。
「お別れですぜ、…旦那と」


屯所に訪れた2人と一匹は、ただ無言だった。
『嘘でしょ?』
『嘘なんか吐いてどうするんでィ』
『銀ちゃんはそんなに簡単に死なないアル!』
『…でも、仕方の無いことなんでさァ』
その様子が本当に、嘘を吐いているように見えなかったもんだから、二人は何も言えなかった。嘘、嘘。そんなの嘘でしょ?ねえ新八、銀ちゃんってそんな風に簡単に死んだりしないアルよね。うん。だって銀さん強いじゃないか。知ってるでしょ?
けれども認めたくない二人が通されたのは、薄暗い霊安室だった。台の上に人が乗っている。誰だ。枕元には別の誰かが一人椅子に座ってじっとしている。黒い髪に整った顔立ちの男だった。
「副長、少し寝たほうが良いですよ」
山崎が声をかけると男が顔を上げた。それは確かに土方だ。しかし言われないと分からないほど酷い顔をしている。目元の隈なんか特に。血液がべっとり付着していた制服は取り替えたものの、まだ頬には血が付いていた。もうかさかさに乾いてしまっていて、おそらく手で触ればすぐに取れるのだろうと思わせる。
「呼んだか、そいつら」
ふらりと頼り無さげに立ち上がった土方は、新八と神楽に目を向けた。こんなフラフラの状態の土方を鬼の副長だと言われて、誰が信じるだろう。
「こっちに来い」
そんな弱りきった身体なのに眼光だけは鋭くて、視線を受けた新八達は一瞬怯えながらも言われたとおりに近づいた。恐る恐る見た台の上に乗っているのは男のようだった。顔にかけられた白い布の隙間から銀色の髪が伸びている。新八と神楽は言葉を失った。横からそっと奪われたその布の下に居たのは、
「…嘘」
紛れも無い、新八と神楽の雇い主で。
「銀さん…」
いつもより不健康そうな、青白い顔だった。


新八と神楽は銀時の亡骸に突っ伏してポロポロ泣き続けている。それでもおきる事の無いのは、身体と魂の繋がりが解けてしまったからなのだろう。
(…脆いでさァ…いや、それは自分もでしょーねぇ)
他人事に見つめる沖田は泣くこともなくただ入り口で様子を見ている。2人が泣き止む傾向は、一切無い。中にいる山崎は、困ったような顔をして2人の後ろに立っていた。そんな中、土方だけはその部屋から1人、出て来る。
「総悟行くぞ」
「え。行くってどこに」
土方は煙草を一つ咥えて火をつける。息を一度吐き出したあとクッと含み笑いをして、
「緊急招集させろ。会議だ」



新八と神楽の見張り、というよりはお守り役の山崎を霊安室に残して臨まれた会議。近藤が上に呼ばれていて居なかったのは幸いだった。何故なら土方の姿を見れば顔を青くして世話を焼き始めるだろうし、これから会議で話されるだろう内容には絶対に反対しただろうから。銀時の死からまだ1日と経っていない。あまりに変わりすぎた世界に土方は苦笑せざるを得なかった。
(…もう近藤さんには会えねえな)
こんな自分は見せられない。きっとあの人はこの世で一番残酷で優しい言葉をかけてくるのだろうから。
「全員集まったな」
現場で処理をしていた者達も仕事を終えて帰ってきた。その場に居たものも居なかった者も、土方の酷い姿に不安を隠せないらしく誰一人言葉を発する者は居ない。いつもは土方を舐めてかかる沖田も、流石に今日は大人しくしていた。土方はそう堅くなるな、と一言置いて本題に入った。
「俺は今日を以って真選組から身を引く」
「今日からの真選組副長は沖田総悟だ。お前ら言う事ちゃんと聞けよ」
「…な」
一気に告げられた話はあまりに急すぎて、誰も理解なんかできなかった。詳細は全て省かれた、本当にただの報告。まるでただの世間話のような話し方をしておきながら、土方はゆっくり紫煙を吐き出した。
「んじゃ終わりだ。お前ら持ち場に戻れ」
「ちょ、っと待ってくださいよ」
土方の真正面に座っていた沖田は片膝をたてて詰め寄った。
「なんだ?なんか問題でもあるか?」
「問題ってアンタ、」
何を言っているんだこの人は。真選組、鬼の副長でしょう?タチの悪い冗談はよしてくださいよ。
「お前は念願の副長じゃねーか。良かったな希望通りになって」
「…おかしいンじゃないですかィ、頭」
土方はああ、と頷いて
「そーだな」
突っかかってくることも無く、煙草を燻らせたまま肯定した。
誰がこんなこと想像しただろうか。彼が真選組をやめるだなんて、おそらく昨日の時点では本人さえそんなことは微塵も考えていなかった。これが運命の悪戯だというのなら、あまりに性質が悪すぎる。悪趣味だ。
「俺の部屋の私物は焼くなり捨てるなり適当に処理してくれや、副長さん」
沖田はポンと肩を叩かれた。一瞬遅れて振り向くと、部屋から出て行こうとする土方の背中。
――――いつもより頼りなく見えるのは、どうしてなんだろう
「土方さんッ!近藤さんも居ない間にこんな勝手やって良いとおもってるんですかィ!それに近藤さんだって」
「わーってるよ」
喰らい付く沖田に、土方は自嘲気味な笑みを洩らした。
「頼んだぜ、総悟。お前らもな」
沖田と全ての隊士達にかかった言葉はあまりに重い。
ゆっくりと、土方の姿を遮るように障子は閉まってしまった。


短くなった煙草を携帯灰皿に押し付けて火を揉み消す。
冬の終わり、晴天の日差しの下、土方の視線は蒼い空に注がれていた。
「…夜まで待てよ」





やるべきことは全てやった、後は時を待つだけ
Coming soon...
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