「…、」
僕は冷たい木の床の感触で目を覚ました。
目の前にはせんちょーがいる。疲れた顔で眠ってる。今日もいろいろあったからかな。
僕の身体にはせんちょーのコートがかかってる。毛布は一枚しかないから、せんちょーがかけてくれたみたい。
せんちょーはけっこう優しい。シエラとはよくけんかばっかりしてるけど、それでも優しい。僕は知ってる。
シエラは僕の横たわった身体の隣においてある緑の帽子の中で羽根を休めて眠りに着いてる。
僕の頭の上の方には盾と、剣と、靴。それからルピーの袋に、それから…いろいろ。
だいぶ長い旅路だったけど、まだまだ先は長そう。それでも大分荷物が多くなってきた。
僕は寝るときだけ、その重みを降ろしてゆっくり眠る。朝、起きたらまた背負わなくちゃいけないから、夜中だけは船の床の上に置いておく。
僕はせんちょーのコートを羽織って、せんちょーにかかってる毛布を直してあげて、冷たい床を踏みしめて甲板に出た。素足だから冷たさが身体に直接伝わって、なんだか変な感じ。せんちょーのコートを床にちょっと引きずっちゃうけど、あんまり気にしてなかった。あとで怒られちゃうかなぁ。
まだ薄暗くって、船は真っ白な霧に抱かれてる。波の揺れる音はするけど、見えない。
ぺたりと船の先のほうに座り込むと、冷たくなった足をせんちょーのコートで包んだ。
けっこうあったかいかも。
「…オイコラ」
後ろから急に声がかかってびっくりした。せっかくまどろんできてたのに…
「せんちょー」
「俺様のコート引き摺るなっての」
「ごめんなさい。はい」
僕はコートを脱いで即席で畳んでせんちょーに返した。せんちょーは受け取ろうとして手を止める。
なんだか嫌そうな顔してる。そんなに汚れてたかなぁ。でもすぐにせんちょーはコートを受け取った。だけどすぐにそれを広げなおして、僕に頭からぽふんと音をたててかぶせる。そのまま脇の下にせんちょーの手が差し込まれて、ひょいと抱っこされちゃった。
どかっと頼りない手すりにせんちょーは座り込んで、僕を抱きかかえてくれる。
僕を支えていないほうの手は、冷え切った僕の足を握りこんで暖めてくれた。
素足で歩くんじゃねえ、とせんちょーはちょっとだけ怒って。
僕の小さい足は簡単にせんちょーに包まれちゃって。
ほっぺたに押し付けられる人のぬくもりに、僕はまた眠くなってくる。
一匹のカモメが僕達の上を通り過ぎた。
周りの霧を引き連れてカモメは姿を消していく。
数秒遅れて、風の駆け抜ける音と深い青色が僕の目に映った。
「ちっとくらい寝坊したって、誰もお前を責めたりしねぇぜ、リンク。」
ラインバックとリンクの話。親子だよねって言いたかっただけ。
リンクはまだまだ子供だけど、勇者っていう運命を背負っていて相当辛いと思います。
ラインバックは大人の勘でそれを理解していて、たまにさりげなくリンクにぬくもりをくれます。
子供リンクはまだまだ甘えたなお年頃なので、「お父さんみたい」とか思いながら子猫のようにそれに擦り寄っています。
シエラは実は影からこっそり見てるんだけど、リンクの目の前じゃ特に何も言いません。
けど嫉妬半分でラインバックにいろいろ言ったりしてます。だからいつも喧嘩してるのね。
ゼルダ:夢幻の砂時計