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これで終わらせようとしたら続くことになっちゃいましたorz
なんだかわからないけど最後のほうに行くにつれてだんだん動揺してきちゃってまともに文字が打てません。
どうしたんだ。





「ね、土方君。銀さん最期に飴が食べたいな」
「わかった」
ほらよ口開けろという言葉と共に、かすかに開いた銀時の口内に入ってきたのはあまぁいイチゴ味のキャンディ。銀時は土方の腕の中、血まみれで微笑んだ。ここは往来。人垣、視線。三十路前の、しかし整った顔立ちの男二人。目を引くのは当然。しかもその片方が、全身血にまみれているなら、尚更。
「総悟、隊員何人か連れて来い、あと死体処理班もだ」
”―――衛生班は、いいんですかィ”
「いらん、早めに頼む」
”―――わかりました。すぐに手配しまさァ”

ピ、と小さな電子音をたてて通話終了ボタンを押した土方は、パタンと携帯を畳んで懐にしまった。
「この場はこれより真選組が受け持つ。関わり無き者は即刻立ち去るように!」
高らかに言い放たれた土方の一言で、わらわらと人垣が散ってゆく。それでも何人か残った一般人は無視して、数メートル遠くに見えた沖田達を確認した後、すぐ脇にあった路地へと銀時を連れ込んだ。
「歩けるか」
「んー大丈夫だよー」
支えながら銀時を歩かせると、いつもどおり気の抜けた返事が返ってきた。それでも本人の姿を確認すれば、それは痛々しくて。深く抉れた傷があちらこちらについて、出血が酷い。白かった着物は真っ赤に染まっていて、元が何色であったのか判別をつけるのが難しいくらいだ。もともと色の薄かった肌は血圧の低下で、更に青白く、いっそう不健康そうに見える。顔を横から見てみればいくつも汗が垂れていて、それだけ銀時に余裕が無いことを知らせている。――身体的にも、精神的にも。
「座れ」
往来よりはいくらか薄暗い路地の、冷たい壁に寄りかからせれば銀時は一人で身体を支えることすらもう出来ないのか、ずるずると壁に赤い線を残しながら地面にべたりと座り込んだ。
先刻よりも息遣いが荒くなったいるのはおそらく土方の思い込みではなく。額に浮かぶ脂汗も地面にぽたりと落ちて染みを作った。この様子では、もう
「…ひじかたくん、情けない顔」
してるね、と続けようとした言葉は発されることは無かった。代わりに銀時の唇から、真っ赤な、真っ赤な鮮血が――――
「無理してしゃべらなくていい」
吐き出された血液は着物に染みることなく、かといって地面へ行くわけでもなく。ただ、土方の差し出された手のひらにほとんどが収まった。変わりに、手のひらと隊服の袖が真っ赤に染まっている。銀時はぼんやりと視線を上げて、土方の顔を見た。真っ赤な自分の手のひらと、そこにあるものを見つめて何かを考えている。汚い、そう思っているのだろうか?と銀時が考えた瞬間、土方は手中にある赤に自分の唇を近づけ、飲み込んだ。銀時は何も言わない。こくりと喉が上下した後、口を手の甲でぐいと拭って、目の前の相手にくちづけた。
同じ、銀時の血の味。それと先ほど土方がやったキャンディの味も、かすかに。まだ口内に残っているキャンディは、二人の歯にあたってカチリと小さな音をたてて存在を主張した。
再び銀時の喉の奥からこみ上げてきた血液を、土方は零すことなく飲み下す。そうして漸く離れた二人の唇を、透明ではなく赤の混じった糸がつぅっと繋いだ。
その色を見て、二人は確信する。
「もう、時間が無いんだな?」
「ああ、みてぇだ」
この会話も、もうすぐ。
終焉のなんと簡単な訪れなことか。
「銀時」
「ん」
「銀時」
「うん」
「銀時」
「…うん」
「もっとなんか喋れよ」
「喋るなって言ったの土方じゃん」
「…そうだったか」
受け入れたのは、土方だった。何も言わない土方に対して、銀時は逆に少しばかり驚いた。けれども、確かにその目には光が消えて。受け入れたのではなく絶望を知った瞳だった。しかし銀時は零れ落ちる命を止められない。それは1秒ごとに確実に零れて行って、拾い上げようとした土方の手をさらさらと抜けていく。
「最期、なんだろ」
止められないと知って、二人は足掻くのをやめた。例えこの先分かれても、と
「うん、」
(ああ、多分コイツ)
(いや)
「お前の声をもっと聞かせろ。これが、最期なら」
違う 分かってる 
「最期なら じゃなくて、最期 なの」
銀時特有の、含んだような笑い方を土方に向ける。これから何が起こるのかを想像、知っている人間の目にしては随分と真っ直ぐだった。ただ、心配しているのは己の身のことではなく。それよりも。
「土方君、」
たった一言が言い出せない。多分、言わなければ彼は自分を追って来てしまう。けれどもその一言を言い出せないのはそれをどこかで期待していて、望んでいるから。自分のためなんかに、そんなことする必要なんか、無いからね。ああ、そう言えればどれほど楽で、そして苦痛か。銀時の視界がぼやける。もう、本当に、本当に時間が無いのだと、嫌でも自覚してしまう。けれど伸ばされた土方の、大きな手のひらに目の淵に溜まっていた涙を拭われて、時間が無いことだけでは無いことを知った。あれ、俺にも涙は残ってたんだ。心の隅でちらりと考える。涙を拭った手はそのまま銀時の背中を抱えて、血で汚れることも構わず抱きしめた。
「待ってろ」
囁かれる言葉は、決して戯言ではなく。銀時が驚いたのが空気でわかる。何か言葉を紡ごうと口が開くが土方には見えない。見る必要も無い。
「ちっとだけ、待ってろ。すぐに行く」
銀時の、外れればいいしかし外れてはならないその憶測だった言葉、その意味。望んだ言葉。ダメなのに。分かっている、彼には彼のこの先の人生、続く道がある。それに自分が干渉するわけにはいかない。もう自分はここで終わりなのだから。このさきこの世で共にいられないこと、彼の人生のひとかけらとして生きていけないこと、それが銀時には堪らず悲しく、寂しく、同時に安心した。
こんなややこしい相手とつるんでいるより、綺麗な女を見つけてとっとと結婚してそしていつか長生きして死ねばずっといいはず。土方は顔は良いのだから、相手なんていくらでも見つかるはず。そう考えていて、銀時はまた酷く悲しくなった。しかしそう、それが相手を思ってやるならこそその類の言葉をかけるべきだ。けれど。

―――銀さん、正直者だからさ。(嘘、そんなこと無いクセに)
「思ってもねえことは、言わなくていい。この期に及んで嘘は吐くな馬鹿」
銀時の考えていることは全てお見通しなのだろうか。土方はクセッ毛の強い綺麗な銀色の髪をくしゃくしゃと撫でた。別の色なんか一本も混ざってない、逆に珍しいその色。それが合図のように、銀時の顔が触れている左肩の、隊服がじわりと濡れ始めた。僅かだが嗚咽が聞こえる。ああ、やっと吐き出しやがって。
「待っ、て る」
途切れ途切れの小さな言葉も聞き逃さないように息を潜めて。耳に届くは昔白夜叉と呼ばれた鬼と呼ばれた悲しき素直になれない男の泣き声。一体何年分溜め込んでいたのか、その心の中に置かれた雨水を溜め込むバケツから湧き出るように水が零れだした。塩辛い水だ。けれど舌が蕩けるような甘い水。矛盾を抱えた水は夜叉の涙腺を通って瞳を潤し、淵に溜め切れなかったそれは頬を伝い土方の肩口の布へと染みこんでゆく。溢れては染み込み、溢れては染み込み、止まる兆しが見えない。けれどもそれを抱きしめる男はただ、静かにその震える背中を掻き抱いてあやすように擦る。思い出したかのように銀時の身体中の傷からはまた血が流れ出して、二人の身体はおろか薄汚れた地面に赤の面積を増やしてゆく。身体は、銀時の身体は冷えていって、土方がどんなに温めようと強く抱きしめても一向に温まらなくて。それが、土方には悲しかった。いや嫉妬した。冷めてゆく熱に、恋人を奪われてなるものかと。もがいても仕方の無いことだと知って、もがくのをやめたつもりでも、しかし、どうしても、だ。やはり諦めきれないではないか。不意にぱしゃりと水の跳ねる音と、頬に跳ね返る生暖かい水。我に返り銀時を振り向くと、背中に回されていた腕がだらりと力なく地面の赤い水溜りへと垂れていた。
「ぎんと、」
顔を見ようとして名前を呼びかけて、土方は言葉を失った。
銀時は土方を、力なく顔だけ振り向き見て、フと微笑んでみせる。真っ白だった。口の端から垂れた血と、それに相対するかのような顔と髪の色白さ。まるで人形のように、美しい。天然パーマはかっこよくないと思っているようだがそれは違う。いや、違ってはいないのかどうかは知らないが、銀時にとってはそれさえもただ美しい。本人に自覚はないようだが。
「ひじかたァ…待ってて、やるよ…いっしゅうかん、くらいなら、な…」
それ以上は待ってられないから、先に逝っちゃうよ?
なんて最期まで素直になれない言葉を紡ぐ唇に、土方は吸い寄せられるようにこの世で最期の、くちづけを施した。血とイチゴの混ざった味。これがいつか子供の間で流行っていたあの童話だったならば、お姫様は目を覚ましたのだろうに。皮肉なことに、このくちづけはお姫様をゆっくりと眠らせてしまった。なんて酷い童話だったのだろう。悲しい願いはくちづけ一つでは叶わない。土方が唇を離したときにはもう、姫君は眠っていたのだから。自らが流した血の湖に沈む姫君は、そのまま王子の元へは帰って来てはくれなかった。
「銀時」
空っぽの抜け殻を力いっぱい抱き締めてもその奥深く、眠った心にまでは届かなくて。手を伸ばしても届かないのならば、身体ごと、行くしか無いではないか。
一週間もいらない。
待っててくれと、土方は亡骸となった夜叉の顔に人として温かい涙を零した。

カラリ、小さな音を立てて閉じられることの無くなったその唇から、小さくなった赤いキャンディが地面に落ちて、姫を攫って行った赤の水溜りに飲み込まれて見えなくなった。







ひとまず一番書きたかった死にネタは書き終わった。
…と、思ったら終わんなかったorz
続きはまたあとで、時間があったら。そっちは主に土方と沖田とか出演する予定。

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