土銀 銀時Dead ver
完結。
…多分。
続きでどうぞ。
完結。
…多分。
続きでどうぞ。
冷え込んだ寒い夜だった。昼間から晴れていたおかげで夜も雲はほとんど無く、月はしっかりと見えている。土方は特に何もする気が出なかったらしく、会議を終えた後はずっと河原に座り込んでいた。何故かこういう日に限って絡んでくる連中は誰もいなくて、話し相手を見つける気には余計なれなくて、いやむしろ一人でいたかった。口に咥えた煙草の灰が落ちても気づかずに我に返った頃には日はとっくに沈んでいて煙草も燃え尽きていた。プッと噴き出して煙草を地面に落とすと、漸く立ち上がった。
「さみーな」
反射的に出てきた言葉だが真意は定かではなく。何故なら何時間も外にいたせいで身体は冷え切っていたから。フラフラと足の動くままに向かった先は屯所の霊安室。もう俺は真選組じゃねぇのにな。そう考えながら靴も脱がずに縁側に上がってみると、部屋の扉は空いていた。中を覗くと既に山崎の姿は無かったが新八と神楽は銀時の乗った台の上で泣きつかれて突っ伏し眠っていた。奥へと回り込んで土方は銀時の顔の布を取った。相変わらず青白い。肩と膝の下に手を差し込み、土方は銀時を横抱きにして持ち上げた。冬の気温のせいで銀時の身体は氷のように冷たかった。そのまま新八達の横をすり抜けて部屋から出て行く。気配が消えている土方に、二人は気づくわけも無く。床は味方をしているかのように音を立てることも無く。土方は屯所を後にした。
肌寒い夜はまだ続いていた。
静まり返った往来を、全身真っ黒の男は腕に大事そうに銀色の男を抱えて歩いていた。ふと、二人の姿が消える。建物の間、少し狭い路地に一人と一つの亡骸は居た。土方は硬直した亡骸を抱きしめる。銀時、ああ銀時。それはその亡骸になった男の名前。銀色の髪とその過去に相応しい名前。かつて白き夜叉、白夜叉と呼ばれた男の生き様を知る名前。土方は銀時の肩に顔を埋めて名前を呼んだ。嗚咽が混じっているように聞こえるのは、ただの気のせい―――なのだろうか?
「甘い…」
死してなお、甘い体臭は土方を酔わせた。甘い物は嫌いだがこの匂いだけは気に入っていた。冷たくなった首筋に舌を這わせれば、生クリームのような甘ったるい味がした。土方は夢中になって銀時の身体を味わう。
「銀時」
口に指を咥えながら話しかける。こうすれば銀時はいつも目元を赤く染めて手を引っ込めようとしていた、確か。
「銀時」
手の甲にくちづける。こうすると銀時は王子様気分ですかと言って笑っていた。確か。
「銀時」
唇にくちづける。こうすれば、銀時は――――
「…わらえねーンだっけ」
そうか、とひとりごちて、土方は地面に置いておいた刀を鞘を抜いた。
「俺はよォ、ずっと考えてたんだ。どーするのが一番の死に方かってな」
ぎゅっと銀時に刀を握らせながら土方は独り言のように呟いた。
「最初はよ、川で溺れるかと思った。が、最近雨が降ってねぇせいで最近水かさ少ねえんだ」
上着を脱いで銀時の肩にかける。せめてもの温もりが銀時の氷の体温に消えた。
「事故ってのは癪に障るしなァ。任務の中で死ぬかとも思ったが、処理が面倒そうだ」
握らせた刀の切っ先を自分の胸に当てて。
「総悟達に言やあ絶対反対すっからな。勝手させてもらったんだ。…で、何が最良なのか考えたが面倒臭くなっちまってよ。まあこの死に様が」
刃に添えた手に力をこめる。
「俺にゃちょうどいいだろ」
そのまま自分のほうへと銀時を刀ごと抱き寄せた。銀時の体重に乗せて刀が皮膚へと食い込み肺を貫く。う、と一瞬土方はうめき声を上げたが抱き寄せる手は緩めなかった。銀時が手中に収まるころ、刀は背中の皮膚を突き破り土方の身体を貫通した。壁にパタパタと真っ赤な花弁が散った。呼吸が上手くできず苦しいのか喉がヒューヒュー鳴る。ずるずると壁を伝い座り込みながら土方は目を一度閉じて、そして開いた。目の前には嬉しそうな銀時の顔があった。
『よォ』
「ああ…大人しく待ってたか?」
『待ってたともさ。でもまさか俺が死んだココに戻ってきてくれるなんて思わなかったからさ』
会話をする二人の足元に、昼間銀時が流した血液が固まって月の光を浴びていた。
ここは、昼間銀時と土方の二人が入った路地裏だった。銀時の死に場所。
「テメーが迷子になっちまうかと思ってよ。わざわざここまで来たんだよ」
『ちょっ何言ってんの!俺別に方向オンチじゃないよ!?』
「そうだったか」
『…そろそろ何も考えられなくなってきた?』
「かもな」
銀時の亡骸を抱きしめながら土方は地面に寝そべる。覗き込むようにして複雑な表情をしながら浮いた銀時は上からそれを眺めていた。
『痛そう』
「痛かねーよ」
『強がり?』
「そりゃテメェだ」
『…土方』
向けた視線の先の銀時があまりに泣きそうだったから、土方は小さく舌打ちした。何を不安がってるんだか。テメェが望んだことだろ。白夜叉と呼ばれたわりに、彼は優しい。故に脆い。きっと望んだことなど滅多に口にしないのだろう、特に大事なことは。
(失いたくないなら望め、伝えろ。死んだ後までそんなツラしてるなんて、どんだけお人よしだ)
「一分だ」
『え』
「あと一分だ、それまで待て。絶対行ってやる」
お前の横に。
銀時はうん、と頷いた。頭の横にしゃがみこんで土方をじっと見つめている。土方は突き刺さった刀を掴んで、もっと傷口が広がるように自分で抉った。その後吐息を一つ吐いて、目を閉じた。
銀時はじっとしていた。もてあますようにてのひらをぎゅっと握っている。数秒後、肩を叩いた大きな手の持ち主を振り返ると嬉しそうに立ち上がった。コツンコツンと足音をさせて黒と銀は路地裏から居なくなり、後に残された黒と銀は静寂に包まれてただ静かにそこにいた。
かすかに光の差し込んだ路地で一人の王子と姫が美しく眠っているのは、次の日まで誰も気づかない。そして見つけた者は言うのだろう、 。
通報は昼前だった。受ければ動くのは警察として当たり前だが、それにしても胸騒ぎが止まらなかった。沖田は早朝に銀時の遺体がなくなったことに気付き捜索に部下を当たらせていたが、見つからず。
「こんなトコに、いたとはねェ…」
部下達も無意識に避けていくだろう、そこは昨日土方が銀時を抱えて血まみれで出てきた場所だった。
「ここじゃァしかたねぇや」
おかしな通報だったという。
その通報してきた市民は、「路地にまるで人形のように美しい二人が血まみれで倒れている、見に来てくれ」と言ったらしい。どういうことなのか部下に見に行かせると、似たような反応が返って来た。遅れてやってきた沖田は話だけでその二人だと気付いて路地に入ったが。
「…こりゃ」
通報通りの姿。血にまみれて地面でくたばったにも関わらず、その二人はそのままの姿で永久保存しておきたいほど美しかったという。
「…おやすみなせェ、王子様と姫様よ」
手向けの花の代わりに、沖田は手に持っていた花を二人に放った。
その辺に生えていた小さな青紫色の花だった。果たして沖田は知っているのか――――
植物の名前は勿忘草。花言葉は真実の愛、そして「私を忘れないで」。
沖田は処理を部下に引き継ぐと、その場を後にした。
とりあえず完結。ここまでお付き合いくださりありがとうございました。
最初の予想に反してながくなっちゃいました。多分後日談は書きます。多分(2回言った
「さみーな」
反射的に出てきた言葉だが真意は定かではなく。何故なら何時間も外にいたせいで身体は冷え切っていたから。フラフラと足の動くままに向かった先は屯所の霊安室。もう俺は真選組じゃねぇのにな。そう考えながら靴も脱がずに縁側に上がってみると、部屋の扉は空いていた。中を覗くと既に山崎の姿は無かったが新八と神楽は銀時の乗った台の上で泣きつかれて突っ伏し眠っていた。奥へと回り込んで土方は銀時の顔の布を取った。相変わらず青白い。肩と膝の下に手を差し込み、土方は銀時を横抱きにして持ち上げた。冬の気温のせいで銀時の身体は氷のように冷たかった。そのまま新八達の横をすり抜けて部屋から出て行く。気配が消えている土方に、二人は気づくわけも無く。床は味方をしているかのように音を立てることも無く。土方は屯所を後にした。
肌寒い夜はまだ続いていた。
静まり返った往来を、全身真っ黒の男は腕に大事そうに銀色の男を抱えて歩いていた。ふと、二人の姿が消える。建物の間、少し狭い路地に一人と一つの亡骸は居た。土方は硬直した亡骸を抱きしめる。銀時、ああ銀時。それはその亡骸になった男の名前。銀色の髪とその過去に相応しい名前。かつて白き夜叉、白夜叉と呼ばれた男の生き様を知る名前。土方は銀時の肩に顔を埋めて名前を呼んだ。嗚咽が混じっているように聞こえるのは、ただの気のせい―――なのだろうか?
「甘い…」
死してなお、甘い体臭は土方を酔わせた。甘い物は嫌いだがこの匂いだけは気に入っていた。冷たくなった首筋に舌を這わせれば、生クリームのような甘ったるい味がした。土方は夢中になって銀時の身体を味わう。
「銀時」
口に指を咥えながら話しかける。こうすれば銀時はいつも目元を赤く染めて手を引っ込めようとしていた、確か。
「銀時」
手の甲にくちづける。こうすると銀時は王子様気分ですかと言って笑っていた。確か。
「銀時」
唇にくちづける。こうすれば、銀時は――――
「…わらえねーンだっけ」
そうか、とひとりごちて、土方は地面に置いておいた刀を鞘を抜いた。
「俺はよォ、ずっと考えてたんだ。どーするのが一番の死に方かってな」
ぎゅっと銀時に刀を握らせながら土方は独り言のように呟いた。
「最初はよ、川で溺れるかと思った。が、最近雨が降ってねぇせいで最近水かさ少ねえんだ」
上着を脱いで銀時の肩にかける。せめてもの温もりが銀時の氷の体温に消えた。
「事故ってのは癪に障るしなァ。任務の中で死ぬかとも思ったが、処理が面倒そうだ」
握らせた刀の切っ先を自分の胸に当てて。
「総悟達に言やあ絶対反対すっからな。勝手させてもらったんだ。…で、何が最良なのか考えたが面倒臭くなっちまってよ。まあこの死に様が」
刃に添えた手に力をこめる。
「俺にゃちょうどいいだろ」
そのまま自分のほうへと銀時を刀ごと抱き寄せた。銀時の体重に乗せて刀が皮膚へと食い込み肺を貫く。う、と一瞬土方はうめき声を上げたが抱き寄せる手は緩めなかった。銀時が手中に収まるころ、刀は背中の皮膚を突き破り土方の身体を貫通した。壁にパタパタと真っ赤な花弁が散った。呼吸が上手くできず苦しいのか喉がヒューヒュー鳴る。ずるずると壁を伝い座り込みながら土方は目を一度閉じて、そして開いた。目の前には嬉しそうな銀時の顔があった。
『よォ』
「ああ…大人しく待ってたか?」
『待ってたともさ。でもまさか俺が死んだココに戻ってきてくれるなんて思わなかったからさ』
会話をする二人の足元に、昼間銀時が流した血液が固まって月の光を浴びていた。
ここは、昼間銀時と土方の二人が入った路地裏だった。銀時の死に場所。
「テメーが迷子になっちまうかと思ってよ。わざわざここまで来たんだよ」
『ちょっ何言ってんの!俺別に方向オンチじゃないよ!?』
「そうだったか」
『…そろそろ何も考えられなくなってきた?』
「かもな」
銀時の亡骸を抱きしめながら土方は地面に寝そべる。覗き込むようにして複雑な表情をしながら浮いた銀時は上からそれを眺めていた。
『痛そう』
「痛かねーよ」
『強がり?』
「そりゃテメェだ」
『…土方』
向けた視線の先の銀時があまりに泣きそうだったから、土方は小さく舌打ちした。何を不安がってるんだか。テメェが望んだことだろ。白夜叉と呼ばれたわりに、彼は優しい。故に脆い。きっと望んだことなど滅多に口にしないのだろう、特に大事なことは。
(失いたくないなら望め、伝えろ。死んだ後までそんなツラしてるなんて、どんだけお人よしだ)
「一分だ」
『え』
「あと一分だ、それまで待て。絶対行ってやる」
お前の横に。
銀時はうん、と頷いた。頭の横にしゃがみこんで土方をじっと見つめている。土方は突き刺さった刀を掴んで、もっと傷口が広がるように自分で抉った。その後吐息を一つ吐いて、目を閉じた。
銀時はじっとしていた。もてあますようにてのひらをぎゅっと握っている。数秒後、肩を叩いた大きな手の持ち主を振り返ると嬉しそうに立ち上がった。コツンコツンと足音をさせて黒と銀は路地裏から居なくなり、後に残された黒と銀は静寂に包まれてただ静かにそこにいた。
かすかに光の差し込んだ路地で一人の王子と姫が美しく眠っているのは、次の日まで誰も気づかない。そして見つけた者は言うのだろう、 。
通報は昼前だった。受ければ動くのは警察として当たり前だが、それにしても胸騒ぎが止まらなかった。沖田は早朝に銀時の遺体がなくなったことに気付き捜索に部下を当たらせていたが、見つからず。
「こんなトコに、いたとはねェ…」
部下達も無意識に避けていくだろう、そこは昨日土方が銀時を抱えて血まみれで出てきた場所だった。
「ここじゃァしかたねぇや」
おかしな通報だったという。
その通報してきた市民は、「路地にまるで人形のように美しい二人が血まみれで倒れている、見に来てくれ」と言ったらしい。どういうことなのか部下に見に行かせると、似たような反応が返って来た。遅れてやってきた沖田は話だけでその二人だと気付いて路地に入ったが。
「…こりゃ」
通報通りの姿。血にまみれて地面でくたばったにも関わらず、その二人はそのままの姿で永久保存しておきたいほど美しかったという。
「…おやすみなせェ、王子様と姫様よ」
手向けの花の代わりに、沖田は手に持っていた花を二人に放った。
その辺に生えていた小さな青紫色の花だった。果たして沖田は知っているのか――――
植物の名前は勿忘草。花言葉は真実の愛、そして「私を忘れないで」。
沖田は処理を部下に引き継ぐと、その場を後にした。
とりあえず完結。ここまでお付き合いくださりありがとうございました。
最初の予想に反してながくなっちゃいました。多分後日談は書きます。多分(2回言った
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