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ニクス×マスターズ英利
死ネタなんで続きで。

暗い



最初は足が動かなくなってきた。
次に、腕を動かすのも億劫になってきた。
そして、視力が落ちた。

終わりが近づいた、証。







これが人間と神の差。
ニクスは病院のベッドに横たわっていた。
あれから随分経った。どれくらいかは…覚えてない。人間ではない英利にとってはとても短く感じられたし、人間であるニクスにとってはとても長いものだった。
ただ、同様に大事なものであることは確かで。
「ニクス、夕焼けが綺麗だよ」
「…そうか」
年をとった。けれど鮮やかな金髪は色褪せることがなかった。
そっと指で掬えばさらさらと流れる猫ッ毛も、若かったころに比べれば大分大人しくなったものだ。
「英利…もっと近づけ。見えない」
「うん」
ニクスに覆いかぶさるようにして、英利はそっとベッドへ乗った。管理者権限を行使して、体重は取り除いてある。まるで紙のような軽さのおかげでベッドが軋むこともなかった。
顔の距離は、鼻先10cm。
「見える?」
「…もう少し近づけ」
(昨日はこの距離で見えていたのに?)
距離は5cmに縮んだ。
「見える?」
「ああ…」
満足そうに、至近距離でニクスは笑んだ。
(綺麗だな…)
ニクスは綺麗に歳をとった。20歳ごろに比べれば確かに目元あたりの皺はふえたけれど、老けたとあまり感じさせない。不思議だが、あまり表面にでない体質のようだ。もしかしたらそれは、英利の影響もあるのかもしれないが。
「お前は綺麗なままだな…英利…」
英利は20代の姿を残したままだった。
旧友と会うときだけ外見を変化させて、ニクスと2人きりの時は昔のままの姿で。…それがニクスの希望だった。


『別に気にしなくていいぜ』
『へ?』
『外見年齢』
『え…でも』
『お前のコトだからまたくだらねー心配してるんだろ?ったく…ま、確かに同じように老けていけねーのは少し残念だけどな。…お前はそのままでいいんだよ、英利』
『……ニクス…』
『それにお前が歳くったら今までみてーにガンガン抱けねーし』
『…そっちかよ…』


「いくら俺が若くても…お前が動けねーんじゃ…抱けねーじゃん…」
ほろり、目元の水と共に零れた本音。ニクスは無表情だった。
できることなら。
「嫌だ…ニクス…どうしてお前まで俺を置いていくんだよ…」
慣れているつもりだった。
何百年、何千年と友人の死を見てきた英利にとって、それは悲しいものではなくなっていた。
いずれ転生のときを迎える。だから死はただの孤独じゃない。わかっていた。…わかっているはずだった。
それでもこんなに、こんなに大事なひとを前にして。
そんなふうに捉えられるほど、本人が思っているほど大人ではなかった。
「……ニクスが、管理者だったらよかったのに…」
そうすれば、ずっと一緒にいられたのに。
「それは御免だな」
顔をあげた英利の目の前で、ニクスはあまり見せることの無い優しい笑みを浮かべていた。
「結構長くユーズとエムゼは見てきたけど、あいつらはあいつらで大変みたいじゃねーの。それに世界を背負わなきゃなんねーなんて、俺には無理だね。俺は自由気ままに生きてーの。面倒なことには捕らわれたくねーの。だから、俺は人間で十分」
お前みてーに頑張れねぇ気質だから、と付け足してニクスは英利の涙を拭った。
「結局はよ、俺とお前がどんな状況だったとしても問題は付き物だし、なんだかんだ悩んだっつーことだろ」
それは神も人間も同じなんだろう?と。問いというよりも確信めいた。
「泣かせてーわけじゃないんだけどな…。でも忘れるなよ。俺は死んでもお前を愛してるし、次の俺も絶対にお前を愛してる。その次も、その先も、ぜってぇお前を愛してやる。逃がさねーよ英利?お前は文字通り、一生俺のもんだ」
乾いた唇が英利のそれに触れた。瞬間、英利には見えてしまった。
彼の終わりまでの、その時間を。
「泣くなって。…来いよ英利、抱いてやる」
本人も悟っているのだろう。自分に残された時間の少なさを。
抱いてやるなんて言って、起き上がる体力もないのに。
随分前から抱かれるときは英利が上に乗っていた。そうでもしなければとてもニクスと行為なんか出来なかったから。
だからこそ、なのか。
残り少ない時間で出来るだけニクスの証を英利に刻み付けて、忘れられないように。
意識がある間はできるだけ、ニクスからくちづけを交わしていた。
それもあと数えるほどだと、英利にはわかっていた。
「ニクス…にくすにくすにくす…」
(好きなんだ。あいしてるんだ。居なくなるなよ。まだ俺の側にいてくれよ。お前さえ望んでくれれば、俺は魂を売ってでもユーズさんに頼み込んでお前を…)
溢れる涙を、ニクスは舐め取り続けた。










それから1週間後。
とある病院の病室から、ナースコールが鳴り響いた。
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